9月のいつか

吉田アミさんのタナカカツキ論の連載が始まった。これは画期的である。タナカカツキ氏はずっと昔から大ファンだったので「逆行の頃」も「エントツに登る子」も前の版で読んでた!クールな前衛叙情は憧れだった。吉田さんはまずここで「マンガ以外の表現にも異様な器用だけどでも本質はマンガ家」という、掴みがたいタナカ氏の仕事のルーツをガロとビッグコミック、地下の実験と商業メジャーの垣根が雪崩れていく70年代後半〜80年代のマンガ状況に辿りつつ、自分の「マンガ」を載せるメディアごと発明し直なければならなかった「マンガ史を自覚的に引き受けざるをえなかった存在」として彼の多面的な肖像を豊富な資料を駆使してトレースしていっている。映画史でもそうだけどどのジャンルでも自己言及的ニューウェイブは産業の黄昏に生まれる。メタな実験的・批評的ギャグで尖がった叙情派、というタナカカツキ独自の作風を稀有な「天才」に押し込めて片付けるのではなく、徹底して当事のマンガ産業の地殻変動に照らし合わせ、具体的にマンガ表現の積み重ねの歴史に位置づける(マンガ史の「地層」から掘り起こして証明する)のがこの論の成果、だろうか。さらにその背景にある「ビックリハウス」とか80年代パルコ文化等にまで追跡は及び、ガロ系のかつてヘタウマと呼ばれた漫画がイラストレーターとかデザイナーとかと並んでおしゃれだった時代があったわけですね。四方田犬彦の表紙をやってたスージー甘金とかね。今後の展開が必見である。(完結編につづく)
http://www.webdice.jp/dice/detail/1835/

・個人でも映画を撮ってて田中羊一映画に出演してもいる石川さんの最近の悲劇のシナリオライター日記が面白すぎる……。わが国ではいかに三次元が二次元に侵食されているかっていうことか。
http://d.hatena.ne.jp/dptz/